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2015.5.12

離職率を減少させる方法⑤‐新入社員の強みの確認と活用

ドラッカーに訊け!

かつて経営学者,ピーター・ドラッカーは,こう言いました。

「何事を成し遂げられるのは強みによってである。弱みによって何かを行うことはできない。」

ポジティブ心理学においても,強みを理解し,活用した方が,弱みをなくすことよりも,よりポジティブな結果や人生での成功に貢献できることがわかっています。
「強みって,私には,特段強みってないよ。」と消極的なことを思う人もいるかもしれませんが,どんな人でも強みはあります。

人格としての強み(キャラクターストレングス)

ポジティブ心理学においての強みとは,キャラクターストレングスといって,人格としての強み,強みとしての徳性・美徳といわれています。
強みの診断には,いろいろなものがありますが,無料でできる診断にVIA-ISというものがあります。これはネットで無料で行えます。VIA-ISの強みの中には,「創造性」,「リーダーシップ」,「忍耐力」,「社会的知能」など,強みやいわゆる長所として納得できるものもありますが,「感謝」,「愛情」,「希望」など,強みを長所ととらえているとおやっと思えるものもあります。ですが,「感謝」,「愛情」,「希望」というポジティブ感情が多いことも強み(人格としての強み)になるのです。

このような強みでしたら,入社まもない新入社員も診断できます。入社前に診断して仕事の配属に生かすこともできますよね。

真の強みとは,ポジティブな性格の特徴で,真正さとエネルギーを感じさせると言われています。自分の強み(人格としての強み)を理解し,それを活用することは,レジリエンスを強化することにもつながります。それだけでなく,幸福度を高めることにもなります。

したがって,新入社員の強み(キャラクターストレングス)を新入社員自身も会社組織も把握し,それを職場で有効に活用できるようなしくみづくりなり配慮をすれば,新入社員は生き生きと仕事にチャレンジすることになり,離職にはつながらないと思います。

2015.5.5

離職率を減少させる方法④-新入社員の自信を高める

科学的に高めることができる自信=自己効力感

前回のブログで,多くの新入社員は,コミュニケーション能力不足に不安を抱いており,そのため,接客時のトラブルなどで辛い失敗経験が積み重なると,レジリエンスが弱り,心が折れ,結果,離職してしまうのではないかと記しました。多分,このパターンは外れてはいないと思います。

コミュニケーション能力を高める1つの方法は,前回のブログで記しました。日本人は(私を含め),アサーティブなコミュニケーションは苦手で浸透していないですが,新入社員には習得してほしいですね。

お客様に接したときの不安感をなくすには,接客に対する自信を深めさせるのが最も効果のある対処法だと思います。ですが,そう簡単に自信ってつきませんよね。ただでさえ慣れない初めての職場環境でナーバスになっているのに。

心理学では自信を「自己効力感」と呼びます。「自己効力感」は,科学的・心理学的に高めることが可能です。また,自信はレジリエンス資源の1つであり,自信の蓄積が個人のレジリエンスを強化します。

自己効力感を高める4つの要因

自己効力感を高めるには,4つの要因があります。以下,効果の高い順に記しましょう。

1.実体験…直接的成功体験です。これが最も効果が高い。不安感の強い新入社員には,すぐさま何らかの成功体験を経験させればよいと思います。

2.お手本・疑似成功体験(トレーニング)…お手本とは身近なロールモデルのことですが,新入社員にとって,まだ職場の雰囲気がわからない中では直ぐにロールモデルを見つけることは難しいですよね。その場合,実戦に望む前に,研修段階でリハーサル,実務を想定したトレーニング,シュミレーションを徹底的に行った方がよいと思います。そこでの失敗は許される失敗ですし,最後に疑似成功体験を経験すれば自己効力感が高まるはずですから。

3.励まし…上司・先輩・同僚・家族・友人などからの言語的激励です。ただし,効果は一時的です。

4.ムード…生理的情緒的に周囲が高揚感をつくる雰囲気づくりです。失敗をした新入社員,失敗を繰り返してなかなか成功体験を得られない新入社員に対しては,失敗を許容し,ポジティブな面を引き出すムードづくりが大切だということでしょうね。

以上のことから,新入社員に,不安感を解消するだけの自信を高めさせるには,新人研修で疑似成功体験を経験させ,現場に立ったら,周囲がポジティブなムードをつくって励まし,最終的に成功体験を数多く蓄積させることが重要ですね。
「何でそんな分厚いサポート,至りり尽くせりのケアが新入社員に必要なんだ」と怪訝に思う新入社員採用担当者,人事担当者,研修担当者がいらっしゃるのなら,離職者1人の損失コストを考えられた方がよいと思います。優秀な人材はすぐには補充できませんよ。最初から優秀な社員などそうそういません。会社に入って優秀な人材に育てて行けば良いんですから。

2015.5.3

離職率を減少させる方法③‐コミュニケーション能力を高める

新入社員の悩み

4月に入社した新入社員が半年後に抱える主な悩みには,「仕事を続けられるか不安」,「先輩との人間関係」,「会社に対する不平不満」,「入社前に持っていた仕事イメージのギャップ」が上位を占めます(図1)。また,それらの悩みの原因として「コミニュケーションが円滑に行われていないから」と考えている新入社員は6割近くを占めるとの結果も出ています。
新入社員の主な悩み
図1 新入社員の主な悩み(2008年 翔栄クリエイト)

前々回のブログで,離職率の高い業種として,宿泊業・飲食サービス業,生活関連サービス業・娯楽業,教育・学習支援業,小売業,医療・福祉関連業を挙げましたが,いずれもお客様と多くの時間接する仕事で,高い対人能力が求められる業種という共通点があります。ただでさえコミュニケーション能力に不安をもつ新入社員が,接客中にトラブルや逆境にさらされ,失敗を引きづってしまうと,レジリエンスが弱まり,心が折れてしまうのでしょうか。そのような経験が蓄積すると,離職につながってしまうと推察できます。

アサーティブネス・スキル

レジリエンス・トレーニングを行えば,コミュニケーション能力,対人能力を高めることができます。それ以外にも,コミュニケーション能力を高めるには,アサーティブネス・スキルを習得することが効果的と思います。
アサーティブネス(自己表現,意見表明)とは,コミュニケーション技法の1つの形態であり,「自分と相手を尊重した上で,自分の要望や意見をその場に適切な言い方で誠実に対等に相手に伝えるコミニュケーションスキル」です。

コミュニケーションは,自分と他人の「個人の境界」をどう扱うかという点で「受動的なコミュニケーション」,「攻撃的なコミュニケーション」,「欺瞞的・作為的なコミュニケーション」,「アサーティブなコミニュケーション」の4つに分類されます。
受動的なコミュニケーションをする人は,自分の「個人の境界」を守らず,攻撃的な人々からの不当な言動を許容し,他人に影響を及ぼすというリスクを冒そうとしません。おそらく新入社員に多くみられるコミュニケーションでしょう。
攻撃的なコミュニケーションをする人は,他人の「個人の境界」を尊重せず,しばしば他人を攻撃します。高圧的な上司や,クレーマーに多く見られるコミュニケーションパターンですね。
欺瞞的・作為的なコミュニケーションをする人は,とげのある言い回しや廻りくどいやり方で人を責める人です・正面から人と向き合えないため,人を操ることで自分の望む方向にもっていこうとする人です。大衆を扇動して破局に導く“悪辣な独裁者”に多くみられます(関西のとある行政区画の首長がこのような方でないことを祈るばかりです。余談ですが…)。

これらの3つのコミュニケーションパターンと異なり,アサーティブなコミュニケーションは,自分の「個人の境界」を守りつつ,自分の心の中を開示することを恐れず,相手の「個人の境界」も尊重しつつ,攻撃的な侵入から自分の心を守ろうとします。そうして,誠実に適切に率直に,自分の意見を主張するコミュニケーションです。このコミニュケーションは,日本人が苦手とするコミュニケーションパターンですね。

アサーティブネス・スキルは,トレーニングで習得することができます。海外では学校教育でも導入しているようです。レジリエンス・トレーニングでも,アサーティブネス・スキルを強化するプログラムを組み込むことがあります。新入社員研修で,アサーティブなコミュニケーションスキルをトレーニングすることができれば,コミュニケーション能力の不安感が払拭され,離職率も減少すると考えられます。

アサーティブネスを身につけなくても,上記のコミニュケーションの4つのパターンを認識しておけば,怖い上司・先輩や,困ったお客様との接し方も変わってくるのではないでしょうか?

2015.4.30

離職率を減少させる方法②-離職の理由と人事担当者の認識

前回のブログでは,離職率の実態を報告しました。今回は,離職者の離職理由と人事担当者が感じる新入社員の特徴をみてみましょう。

離職者の離職理由

最終学校後に初めて就職した会社を退職した理由を見てみると,「労働時間・休日・休暇の条件が良くなかった」が22.2%,「人間関係が良くなかった」が19.6%,「仕事が自分に合わない」が18.8%,「賃金の条件が良くなかった」が18.0%,「会社に将来性がない」が12.4%となっていました(図1)。会社の労働条件・給与待遇の問題が最も多く,次いで職場の人間関係,職務の適応性の問題が続いています。

退職理由
図1 最終学校卒業後初めて勤務した会社を退職した主な理由(2011年,厚生労働省)

人事担当者が感じる新入社員の特徴

一方で,新入社員を採用し,教育する人事担当者の側の気持ちを見てみましょう。図2は,人事担当者にアンケートした新入社員の特徴の調査結果を示しています。人事担当者が考える新入社員の特徴は,「受身的である」,「まじめである」が55%を超え,「精神的に弱い」が38%,「他者との争いを好まない」が35%,「失敗を恐れる」が32%を占めています。この結果から,人事担当者は今の新入社員に対して,総じて「消極的でプレッシャーに弱い」という印象を持っているようです。

人事担当者が感じる新入社員の特徴
図2 人事担当者が考える新入社員の特徴(2012年,HR総合調査研究所)

離職者の離職理由のうち,労働条件や給与待遇が原因の場合は,所属する企業の努力で少しでも改善しなければ新入社員を教育して離職を減少させることは難しいですが,人間関係の問題や,仕事の適応性の問題は,社員教育や社内研修で解決することが可能で,それによって離職率は減少すると思われます。そのような取り組みを行うことによって,人事担当者が抱く新入社員像である「消極的でプレッシャーに弱い」といったイメージも払拭できるかもしれません。

2015.4.27

離職率を減少させる方法①-「離職率の実態」現状を把握しよう

先日,大阪のとある娯楽サービス産業会社の人事担当者と話していたときのこと。その会社も,業界の傾向である高い離職率に悩まれているようで,どのように軽減すべきか思案し,色々な取り組みを検討している最中とのことでした。その一環としてレジリエンス・トレーニングの導入も考えているそうです。

離職率の実態

そこで平成24年度の厚生労働省のデータを調べてみました。平成21年(2009年)から平成23年(2011年)の間の新卒3年社員の離職率は,高卒,短大卒,大学卒いずれも上昇しています(図1)

離職率の増加
図1 高卒,短大卒,大学卒の新卒3年社員離職率推移(平成24年度 厚生労働省)

事業規模別の離職率データを見ると,5人未満の事業所の大卒離職者は60%に達しており,5~29人の離職率は50%を超え,30~99人の事業所でも40%に達しています。100人未満の企業では2人に1人は3年以内に離職しているのですね。なかなかの衝撃度のあるデータかと思います。

事業規模別離職率
図2 事業規模別離職率(平成24年度 厚生労働省)

次に産業別の離職率のデータを見てみると,宿泊業・飲食サービス業が52.3%,生活関連サービス業・娯楽業が48.6%,教育・学習支援業が48.5%,小売業が39.4%,医療・福祉が38.8%になっています(図3)。離職率の高い産業は,共通性がありそうですね。

産業別離職率
図3 産業別離職率(平成24年度 厚生労働省)

現状をデータから分析してみると,課題と対策が見えてくるかもしれません。次回のブログは,離職理由を考えてみましょう。